Research Concept

Our Research

固体物理と量子ナノ技術の融合

 伝統的な固体物理学では、多様な物質がもたらす豊かな性質を、さまざまな実験手法を用いて探究してきました。 これらの系では、一般に多くの自由度が互いに影響し、例えば、高温超伝導、強磁性、巨大磁気抵抗効果など 個々の要素からは現れない創発的な性質が現れることがあります。 このような多体系特有の性質が物性研究の大きな魅力となっています。 一方、量子ナノ技術は、自由度を減らして単純化し、外部との相互作用を遮断した少数自由度の孤立系を扱う 還元論的アプローチが基本です。これは、量子系が非常に繊細で、 環境との相互作用によってデコヒーレンスを引き起こしやすいためです。

 このように、固体物理と量子ナノ技術はしばしば対照的な立場にあり、 両分野が融合した研究は、まだまだ限定的と言えます。 とはいえ近年では、ダイヤモンド中のNV中心や超伝導SQUID素子などを用いた、 いわゆる量子センサが固体物理の分野で積極的に活用されるようになり、固体物理分野における 新たな手法として、大きな注目を集めています。我々は、このような境界領域に強い関心があります。 固体物理をバックグラウンドにもつ我々が、ナノ技術や先端計測手法などを存分に駆使して、この領域に踏み込むことで、 これまで知られていない基礎的な性質を明らかにしたり、それを基盤とする量子技術や量子デバイスへと繋げることを目指しています。そのため

  1. 固体物理の視点から、次世代の量子技術や量子センサに繋がる量子系の研究をしたり
  2. 量子ナノ技術を活用して、固体物理の未解決問題に取り組んだり新機能開拓を目指す研究
を行います。




Research Theme 1

固体中の量子もつれ

量子力学の顕著な性質の一つは量子もつれです。 この状態は、量子コンピュータや量子センサなどの新技術において非常に重要ですが、 その繊細さゆえに、主に少数自由度の系を対象に研究されてきました。 一方、固体中には超伝導や量子スピン液体など、膨大な数の粒子が量子的に相関した状態が存在します。 これらは、量子もつれの研究舞台として極めて魅力的ですが、その制御や観測が極めて難しく、実験的な研究はあまり進展していないと言えます。 我々は、この固体中の量子もつれに着目し、これに実験的にアクセスしてその性質を明らかにすること、またそれを応用した 超高感度量子センサへの実現を目指しています。

Research Theme 3

トポロジカルフォノニクス

トポロジーの概念を取り入れた全く新しい弾性波(フォノニック)デバイスを創出します。 特にナノスケールでデザインした人工物質を活用することで、 GHzスケールのフォノンを制御するトポロジカル音響回路を実現します。 このアプローチにより、次世代のマイクロ波通信や量子技術、スピンセンシングなどで活用できる新しいプラットフォームを提供します。 これにより古典通信から量子センシングまで幅広い用途に対応できるフォノニックデバイスを実現します。
(Y. Nii and Y. Onose, Phys. Rev. Appl. 19, 014001 (2023), Editor's suggestion )

Research Theme 3

固体中の新機能開拓

ナノデバイス技術や量子測定技術を駆使し、 従来にはない新しい物性機能の探索を行います。 近年では、例えば"右向き"と"左向き"で粒子や波の伝播が異なる非相反性現象に注目して研究してきました。 特に微細加工技術を活用することで、電子や光に加え、固体中の格子振動(フォノン)、スピンの歳差運動(マグノン)、 さらには熱流においても非相反性を実現してきました。 これにとどまらず、ナノ技術や量子技術を駆使し、(たとえ極めて小さな効果であっても) 本質的に新しい現象を開拓することを目指しています。
(PRL(2025), NCOM(2024), NCOM(2021), Sci.Adv(2020), JPSJ (2017) etc...)